「でも、それぞれの人生とか。
 幸福とか、あったんじゃないのかなって。

 大人になって読んでみて、思ったんです。

 それは王子様が現れるとか、そういう劇的なことは起こらない毎日かもしれないけど。

 家に帰ると誰かが待っててくれるとか。

 誰かのために美味しいものを作ってあげようとせっせと調べ物をしてみるとか。

 そういうささやかだけど幸せな日常が、いきなり全部ふいになっちゃったんだろうなって」

 眠り続ける従者たちを待っていた、家族や恋人たちも居たんだろうに。

 何故か今はそういうことを考えるようになっていた――。

 唐突にそんな話を始めるつぐみを奏汰は腕をつかんだまま、黙って見つめていた。

「……お前だったら、どうする?
 俺が突然、眠り続けたら?」

 あっさり他の男に乗りかえるか? と訊いてくる。