しかしその願いは無残にも打ち砕かれた。


人ごみの中、運悪く人の間から王子の姿が見える。
その時、王子とばっちり目が合ってしまったのだった。


「……あ」


しかしそれはほんの一瞬のことで、くるりと身体は王子を背にするように動かされた。

王子の視線を背中で感じながら、ひとり絶望の思いに駆られる。


ああ、どうしよう。
あれは絶対気づいているわよね。

こんなことなら無理をしてでも拒否するべきだった。
そうしたら、こんな思いになることはなかったのに。

しかし見られたくないという願いは、私だけのものであって、別に王子は私がリフィト王子と踊っていたところで、なんの感情もないだろう。

だって王子は私のことなど、なんとも思っていないはずだから。


それでも、見られてしまったというショックは隠しきれない。
ダンスのマナーとして、無理にでも笑みを作るべきなのに、そんな余力すら残っていなかった。


今の私には、この場から今すぐいなくなりたいという思いと、心がとても苦しいということだけ。

どうしてこう上手くいかないのだろう。

些細な願いなはずなのに。
気づかないで欲しい、たったそれだけだったのに。