物思いにふけっていると、バルコニーの入り口に見慣れた姿。
そのお方はリフィト王子だった。
目に入るや否や、私は礼をする。
「あ、ここにいたんだね。どうしたの?少し具合でも悪くなった?」
「いえ、人の多さに疲れてしまって休憩をしておりました。リフィト王子は、どうしてここへ?」
「ララを探していたんだ。ちょっと話をしたくてね」
そう言うとリフィト王子は私の隣に来て、手に持っていたドリンクを差し出す。
「お酒は入っていないよ、甘い果実のジュース。まずは飲んで」
「す、すみません。ありがとうございます」
その時に浮かべた笑みは、やはり魔性。
そんな気はないのに、少しドキリとしてしまった。
「それよりも、お話というのは?」
「いや、改めて兄さんのことで礼を言いたくてさ。国王になりたくなかったから、本当に助かったよ。兄さんを会心させてくれて本当にありがとうね」
突然の感謝の言葉に、恐縮してしまう。
……しかし国王になりたくなかったなんて、それは王子も同じことだっただろうに。
「会心なんてそんな……。でも、なぜそんなに嫌なのです?」
「決まってるじゃないか、責任が重すぎる。好きなこともできないし、第一、僕は国王に務まるような性格ではないんだ。すぐ投げ出しちゃう性格だしね。責任感の強さは兄さんの方が持ち合わせている。だから昔から兄さんには迷惑ばかりかけてきていて、その反動が部屋にこもる原因のひとつになったんだろうと、反省しているよ」
「もしあのまま、王子が部屋から出て来なかったら、リフィト王子はどうするつもりだったのです?」
「うーん、どうしていただろうね。ひとりでは覚悟を決められなかったかもしれないな。ひたすら逃げることを考えていたかも。……でも、ララみたいな人が傍にいたら、その覚悟を決めていたかもしれない」


