「やめて……」

弱々しい声が部屋に響き、その瞬間王子の動きがピタリと止んだ。


こめかみが冷たく感じる。

どうやら知らずに涙を零してしまっていたらしい。その涙はこめかみを通り、髪の毛にじわりと染み込んでいった。

止めようと思っても、止められなかった。
どんどんと溢れていく涙は、徐々に髪の毛を濡らしていく。

「っ、ううっ」

耐え切れず、嗚咽も漏れた。

やがて私の泣いた姿に冷静さを取り戻した王子は、ゆっくりと私へかけていた圧力を緩めていく。



「……俺は、なんてことを」

力なくそう呟き、そのまま絨毯へと座り込んでしまった。
呆然とする王子に、私はなにも声をかけず、ただ無言でソファーから起き上がり、部屋を出る。

そして廊下を走って自室へ戻り、そのままベッドに顔を埋めて泣いた。

声なんて、かけられるわけなかった。
どうしたらいいかもわからなかった。

ただ自分のこの気持ちを落ち着けたくて、それでも変わらぬ思いに気づかされて、ひとりになりたかった。