「人殺しを嫌っていたお前が人殺しになるつもりか、浅井」
頬を叩かれ我に返った紅緒は目の前の彼に大きく目を見開いた。
それもそうだ。
死んだと思っていた彼が……凌君が生きていたんだから。
「寿永隊長……?」
「俺が知っている浅井紅緒という女はそんなモノに落ちるような女じゃない。なら、お前は誰だ?」
我に返って自分のやったことを思い返したのか、紅緒は頭を抱える。
「私……は……何を……私は……誰……?」
「お前は浅井紅緒、俺の補佐官だ」
凌君は混乱する紅緒の手を優しく握る。
そんな彼の行動に、紅緒の頬から涙が溢れ落ちる。
一先ずひと安心かな……。
安心したことで体から急に力が抜け、倒れそうになった。
でも、江君が支えてくれたから倒れることはなかった。
「凌の奴、いつも良いところを持っていくな……」
江君の安堵のような、切ないような掠れた声に、僕は苦笑いだ。
「それは同感……」
凌君はいつも良いところを持っていく。
紅緒も彼の言葉を、彼の言葉だけは絶対に裏切らない。
それだけの信頼を紅緒は凌君に向けている。
「僕、妹離れ出来るかな……」
ポツリと呟いた僕に、江君は苦笑いを浮かべた。
≪紅斗side end≫



