「クッソ……」




左目の出血のせいで視界が歪み、立っていられない。





「紅緒……」





僕はふらつく足に力を込めてどうにか立つことだけを維持し、半狂乱の妹を見た。





「逃げないでよ。可愛い娘が目の前にいるんだよ、お父さん?」





狂気じみた目を切碕に向けながら紅緒は刀を振り回している。






「本当は逃げたくないけど、逃げないと殺されるからね」





「娘に殺されるなら本望じゃない?」





「……いや、遠慮するよ」





切碕は急接近してきた紅緒の腕を蹴り、刀を弾き飛ばした。





でも、紅緒の手にはまだ拳銃が残っている。





紅緒は拳銃を利き手に持ち直すと、切碕に向けて発砲する。





これは本当にまずい。





止めないと、紅緒は切碕を殺すまで暴れ続ける。





そうなれば、元の紅緒には戻れなくなる。





人を殺す喜びを知った殺人鬼になってしまう──。





そんな思考が頭を過った、瞬間。





「……勝手に切碕を殺すな、馬鹿」





拳銃を握る紅緒の手に触れる影が一つ。





何で……彼が……。





紅緒の手に触れている影はその手から拳銃を奪い取り、半狂乱のその顔に平手打ちを食らわせる。