「冬雪ちゃんはね、依良の奥さん。つまり、詩依の母親だよ」
「お母さん……」
「そう。雪みたいな儚さを持ったとても綺麗な人でね。生に執着しない依良の心を開いて、唯一依良が誰よりも愛した人なんだ」
蓬條さんが生に執着しない人だった?
以前、ホテルで見かけた彼は凛とした秀麗な人で、とてもそんな風には見えなかった。
……あれ?
確か、詩依さんのお母さんって──。
「でも、その唯一人は今眠り続けてる。詩依を産み落としてすぐに切碕の呪いでね……」
佐滝さんの言葉に、私は言葉を失った。
詩依さんのお母さんは彼女を産み落としてすぐに眠りについた。
詩依さんは私と同い年らしいからもう20年は眠り続けていることになる。
彼女はお腹にいる頃から慈しみ、生まれてくる我が子を抱くこと、成長を見ることをきっと楽しみにしていただろう。
それなのに、彼女は抱くことも成長を見ることも出来ずにいる。
それがどれだけ悲しいものなのか計り知れない。