「寿永隊長のお母様には何も言われていません……」
「なら、何故だ?何故、辞めたい?」
あの人に何か言われた訳じゃないなら何故辞めたいと言う?
俺の問いに、彼女は唇を噛み締める。
そして──。
「寿永隊長、何で私を名前で呼んでくれないんですか……?」
そうか細い声で言った。
名前?
──っ!?
彼女が補佐官になってからの記憶を辿ってみるが、俺が彼女の名前を呼んだ記憶がない。
名前はその人にとって自分の存在を表すもの。
姿よりも多くの人の目に触れ、記憶に残り、親が様々な想いを込めてつける……それが名前だ。
「……『名前を呼ばれないということは凌は無意識に貴女を拒んでいる』。貴方のお母様がそう言っていました。そうなんですか、寿永隊長?」
……あの人に何も言われてないとか言っていたが、言われてるじゃないか。
それよりも俺は無意識に彼女を拒んでいる?
──分からない。



