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意識が底へと沈んでいく。


まるで眠りに落ちるみたいだ。


「んっ、なんだ…? ここは……?」


やがて美花が目覚めると、そこは真っ暗な日本建築の屋敷の中だった。人の住んでいない廃墟のように、古くて汚い屋敷だ。


木が湿って腐った臭いがする。歩く度に畳から埃と土が白い煙のように立ち込め、ギィギィと床が悲鳴を上げる。自分の足元ですらぼんやりとしか見えないほど暗い。


「どこだよ、なんで私はこんなところに……?」


制服を着た美花は土足のまま屋敷の中をさ迷っていた。なぜここにいるのか? 自分が何をしているのか? それさえも美花には分からなかった。ただ、ぼんやりとした不安と恐怖心が彼女を襲う。


「祐希、メイ、詩依………?」


美花は試しに親友の名前を呼んでみた。もちろん、その呼びかけに返事をするものはない。


やがて目が暗闇に慣れてくると、部屋の中にたくさんの人形が横たわっているのが分かった。着物を着た和人形だ。


「…………」


美花はおもむろにその中の一体を手に取った。人形の白い肌には、べっとりと赤黒い何かがついていた。塗料か………? 絵の具………? いや違う………これは人間の血だ。


「どうして、こいつらは血まみれなんだ……?」


畳、障子、天井。よく見ると、部屋のいたるところにべっとりと血がついていた。さながら屠畜場のようだ。


美花は人形の顔についた血を指で擦った。美花には人形が何かを訴えかけるようにこちらを見つめている気がした。


生きているはずのない物体だ。それなのに、なぜだろう? おそらくそれは、苦痛に満ちた、激しい感情だ。