美花が早退した日の放課後。心配した祐希は美花に連絡を試みたが、携帯が繋がらなかった。


そこでメイと祐希、詩依の三人は美花についてサッカー部に事情を探るために、昨日と同じく、また、大野の元を訪れていた。


「あっ? 美花が早退したって?」


大野はそう言いながらサッカーゴールにむかってシュートをした。キーパー役の部員はあまりの球速に反応することさえできずにゴールが決まった。大野は昨日よりもさらに調子がいいようだ。


「……はい。それで、大野先輩なら美花について何か知ってるんじゃないかと思いまして……」


サッカー部員達は練習中にグラウンドに入ってきたメイ達に不機嫌そうな態度を示していた。


祐希はそんな部員達の視線に怯えながら大野に言った。普段は美花に助けられてばかりの祐希だが、この時はかなり美花について不安を感じている様子だった。


「はぁ、早退とはあいつも困ったもんだな。外で男でもできたのか……?」


大野の一言にサッカー部から笑い声が上がった。大野はさして美花のことは気にとめていないようだった。


「あ、あの、笑い事じゃなくて! その、今日の美花はすごく元気がなかったというか、えっと……」


練習の邪魔するなよな。と、言いたげな大野の視線を浴びて萎縮しながらも、祐希は懸命に美花について話していた。対して、メイと詩依は横柄な大野らの態度に不満そうな様子だった。


「……さあ? そんなこと言われても、私は一ヶ月近く休んでいたし、美花のことはそれほど見てないよ。それに部員達からも、美花が特別おかしかったとかは聞いてないしな」


大野は突き放すような態度で言った。


「そうですか……」


祐希は残念そうにうつむいた。


「ほらっ! 用がすんだらとっとと消えな。練習の邪魔だ!」


大野は見下すような視線を三人にぶつけた。祐希は大野の気迫に怯みながらも、しぼりだすような小さな声で言った。


「でも私、もし、美花に何かあったら……」


祐希は泣き出しそうな顔をしていた。


「はっ? 知らねぇよそんなこと。どうせ美花も私が戻れば部の戦力としての用はないんだ。もう来なくたってかまわないよ……」


「えっ……?」


大野はうっすらと笑いながら言ってのけた。それは美花をサッカー部から否定する言葉だった。


メイは大野の態度が美花がいなくても自分さえいれば勝ち続けることができるという過剰な自信の現れだと感じた。


同時にそれが奇跡的な足の回復からくるものだとしたら、皮肉なものだとメイは思った。