Miseria ~幸せな悲劇~


「思い出せ。メイ…」


「えっ………」


フードの男は突然、面識のないはずのメイの名を口にした。


直後、男は被っていたフードを取った。


長髪の男の顔には、縫いつけられたかのような傷跡が刻まれていた。


メイは呆然としたまま、口を開けて男を見つめる。


メイの目に振りかざした男のナイフが映った。


殺される。


メイがそう思ったとき、



「う゛う゛う゛う゛ぅ゛!!! う゛う゛う゛う゛う゛……!!!!」


男はメイを襲うかに見えたナイフを自身の口の中に突き刺した。


「う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛ぅ゛……!!!」


何度も、


何度も、


何度も。


男の血が口の中一杯に溜まり、それがまた、再び突き刺されたナイフによって辺りに飛び散る。喉を切り裂き、舌を剥ぎ取ってなお、男の自傷行為は止まらない。何度も、何度も、突き刺す。


な、何をしているの? あいつは…………


詩依はへたりこみながら男の奇行を見つめた。


「………………」


メイもまた、誰よりも近くで男の行為を目の当たりにする。


ドクン、ドクン、ドクン、ドクン………!!!


男がナイフを突き刺す度に、メイの心臓は突き上げるように鼓動を打った。


何か大きなものが、彼女の中でうごめき出す。