☆☆☆


朝比奈朱実。元凪瀬校の生徒にして後に喰イ喰イとなった少女。



名実ともに良家出身の彼女はその艶かしい黒髪と対照的に、純粋無垢な笑顔と人柄で誰からも愛される美しい少女だった。


しかし、


朝比奈朱実の持つ美しさは、作られるべくして作られた『人形』としてのものだった。


人形技師であった少女の父親は実の娘を生きながらにして、永遠に魂を持った人形として育てたのだった。


つまり父親は、少女の身体が理想通りの美を極めた時、少女の魂を身体に閉じ込め、そして、冷たくなった身体を永遠に己の作品(人形)として遺す計画だった。


『不幸』なことに、純粋な少女は父親の理不尽なまでの欲望に、自身の運命に気がつかなかった。


少女が人間であった最後の夜に、父親の手でその腹を引き裂かれるまでは。


「お願い………」


その夜、父親によって死を迎えようとしたとき、少女は、何よりも生きることを願った。たとえどんな代償を背負おうとも。魂を売ろうとも。ただ、生きたいと願った。


「助けて、このままだと、私、死んじゃうよ……」


その願いはある悪魔によって叶えられる。しかし、それは、


「いいよ、私の身体、あなたにあげるから。だから…」


喰イ喰イという一人の怪物を産み出す結果となった。