凪瀬校の校門前では、当然のことながら、昼間のように賑やかな人の気配はなかった。ただ一人、門の柵に寄りかかっている者がいた。


「はぁ…」


メイによって呼び出された詩依だ。一足先に学校に着いた詩依は携帯を握りながら夜空を眺めていた。月が満月に近い形だ。月明かりも明るい。


じっくりと夜空を見る機会が滅多になかったためか、少し感傷的な気分になった。


「詩依ー!」


そんな詩依のもとにメイと祐希が駆けつけてきた。


「もう、遅いわよ」


「ご、ごめん」


詩依はいつもより苛立った様子だった。


「ふん。じゃあ、とっとと乗り込みましょう。時間切れにならないうちにね」


詩依は学校の柵に手をかけた。祐人のことについてはメイからメールで知らされていた。


喰イ喰イが祐人をいつ襲うか分からず、一刻を争うこと。そして、魅郷の資料を探すことが危険を伴うかもしれないことも承知していた。


「あの、詩依…?」


祐希は恐る恐る詩依に言った。


「何よ?」


「その……来てくれてありがと。私なんかのために…」


祐希はうつむきながら言った。


「いいわよ。そんなこと…別に裕希だけのためじゃないし…」


詩依は暗闇の中に浮かぶ白い校舎を睨んだ。昼間に見慣れた校舎と違う。怪物の住む城のような不気味さだ。


「それに私だって、やられっぱなしは嫌だしね」


詩依は不敵に微笑んだ。