「……先生、あなたにいくつかお願いがあります。まず、今から私が渡すものを、厳重に保管して学校のどこかに隠してほししい」


魅郷の鞄の中にはびっしりとノートが入っていた。喰イ喰イに関して彼女がまとめたものだ。


「それはかまわないが。しかし何のために?」


生摩は不思議そうに尋ねた。


「希望を残すためですよ。私が死んだとしても、いつか現れるであろう喰イ喰イと戦う覚悟をもった生徒に、私の武器を託したいんです」


魅郷は手にしていたセーラー服を握りしめた。


「凪瀬の後輩に、喰イ喰イと戦おうとする者が現れると……?」


教師は怪訝そうに言った。


「はい。奴がまだ生き続けるのなら、数年か、あるいは十数年先に。きっと誰かが、この理不尽に気がつくはずです」


魅郷の言葉を聞いて教師は不安げにうつむいた。


「……だが、魅郷のような天才でも勝てない化け物に、ただの高校生が勝てると俺には到底思えない……きっと魅郷を越すほど優秀な生徒はもう二度と現れないだろうし…」


生摩には疑問だった。


喰イ喰イを倒す武器を、自分よりも劣った後輩に残す必要があるのか? と。


現に魅郷は、たった二ヶ月で喰イ喰イについて事細かく調べた。喰イ喰イの誕生や、彼女の目的についてまである程度の見当をつけるほどだ。


素直に天才だと思った。それは全て魅郷一人の力によるものだった。


「そう。現れないですよ。だからこそ次は私には持っていない何か、例えば一人ではなく、複数の生徒……友情や愛情と言ったものが呪いに打ち勝つ鍵となりえるのでしょうね」


魅郷はそう言ってセーラー服を鞄の中に戻し、鞄ごと教師に手渡した。