その頃、美花は家の玄関で美花の母と話していた。


「じゃあ、いってきます」


美花は母にむかって言った。気だるげな朝の挨拶だ。


「本当にいいの? 車で送らなくて?」


美花の母親が不安そうに尋ねた。美花は右足を引きずって松葉杖をついていた。まだ杖なしでは歩けなかった。


「いいよ。それにできることは自分でしたいしさ」


美花は静かに微笑んだ。美花の長い赤髪が動く度にゆらゆらと揺れる。トレードマークのポニーテールに縛らずに、美花は珍しく髪を下ろしていた。慣れていないせいか、動くには少し邪魔なようだった。


「分かったわ。でも無理はしないでね…」


そう言って母は美花に高校の鞄を渡した。美花はそれを左手で受けとり肩にかけた。


「はいはい。わかってるよ」


美花はにこりと笑って玄関のドアに手をかけた。うわ、なんか眩しい。ドアを開けると、外は朝の光で満ちていた。見慣れたはずの光景が、不思議と懐かしく思えた。