「誰にも言うんじゃねぇぞ……」
晋吾は倒れる祐希を見下ろしながら言った。そして、例の女性もののバッグを拾い上げ、またどこかへと出掛けていく。
「うぐっ、ひくっ……」
祐希は頭の血を手でおさえながら、晋吾が去っていった方を見つめ続けた。
痛みと悲しみと……悔しさで涙があふれてくる。今まで晋吾に殴られたことはあった。それでもどこかで、娘である自分を気遣って手加減をしていると信じていた。
でも、今回は違った。ガラス瓶という凶器だ。一歩間違えれば死んでいたかもしれない。
晋吾に対する大きな失望が胸を包む。しばらくは呆然と動けずにいたが、祐希はおもむろに立ち上がった。
そして、散らばったガラスの破片と、晋吾が散らかした酒瓶を片付け始めた。もし、誰かが踏んだら怪我をするかもしれない、と。祐希は思ったからだ。



