翌朝、大事なことを思い出して飛び起きた。

今日は7時56分の電車には乗れない…

慌てて時計を確認すると6:50を指している。

バタバタと着替えを済ませて大野さんを起こす。
寝起きは良い方みたいで、すぐに起きてくれた。

コーヒーと食パンで急いで朝食を済ませたいのに、

「もっと、ほかほかのごはんとか出ないのかよ」

そんなずうずうしい態度の大野さんを軽くシカトして、さっさとメイクを終わらせる。

「急いでください。置いていきますよ」

42分の急行に乗るならば、あと5分で家を出なければ…

「なんだよ。そう急かすなよ。おまえ、化粧してもあんま変わんないな」

のんびりしている大野さんこそやっぱりお坊ちゃんだ!
って言ってやりたかったけど、とにかく急いで準備をしてもらう。

末岡さんとの鉢合わせだけは避けなければ。

そんな私の焦りを他所に大野さんは鏡を見てゆっくりとネクタイを締めている。

もうタイムリミットです!

「それ持って行って会社でやってください」

大野さんの腕をひいて飛び出た。


「なんだよ。そんなに早く出ないと間に合わないのか?」

不機嫌そうな大野さんは完全シカトですごい勢いで駅に向かった歩く。

ホームに着いたのは39分。

良かった。これで末岡さんには会わなくてすむ。

ちょうど各駅停車の電車が止まっている中を、念のため3両目付近は避けて7両目付近まで行こうと思って更に歩き始めたときだった。

各駅停車から降りてきた集団の中に、四角い黒い鞄が見えた。