どこまで行ったんだろう。
道に迷ったとか、それとも帰った?

「それならそうとひと言くらいあっても…」

そんなことを思いながらお風呂にお湯を張っていると、スマホが鳴った。
課代からだ。

「俺。部屋番号忘れた」

要件だけの電話なのになぜかホッとした。

「601です」
「わかった」

という声の後すぐにインターホンが鳴る。

「はい」

と出ると、スマホと受話器の両方から
「俺」って声が聞こえた。

オートロックを解錠してしばらく待つ。
なんだか落ち着かずに無駄に物を移動させてみたりしている自分がイヤだ。

玄関のチャイムが鳴る。

玄関の鍵を開けるときに一瞬手が止まったけど、ガチャっと鍵を開けた。

課代はスーツの上着を脱いでいて、うっすら額には汗がみえる。

どこでスポーツしてきたんですか?

「はい、これ。泊めてもらうお礼」

そう言って目の前に出されたのは赤ワインだった。

結構強引に泊まっていくことを決めたくせに、手土産を用意するとか変に律儀なところが可笑しい。

課代はそのまま無造作に靴を脱いで、中に入っていった。

課代の靴をゆっくりと揃えた。
頬が熱い。
どうかリビングに戻るまでには元にもどりますように