「ここです」

重い足取りで到着してしまったマンション。

「わかった」

そう言った課代はなぜか通ってきた道を戻っていく。

「どうしたんですか?」

泊まるのやめてくれました?

「買い物。部屋どこ?」
「部屋は…601です」

やめた訳ではないんですね。

課代はこちらを振り向かずに右手だけ上げて歩いていった。

本当に泊まるんだろうか
本当に泊めていいのだろうか
上司と部下って関係で、ここまでしていいものだろうか…

確かに助けてもらった恩はある。
でも、一応一人暮らしの女の部屋、
課代は何とも思わないのだろうか?
それぐらい遊んでるってこと?
もう少し抵抗した方が良かったかもしれない。

この期に及んでもウダウダ悩みながら部屋を片付けてて、ベッドメーキングをしている時にふと気付いた。

どこに寝てもらう?

まさか私のベッドで一緒にという訳にもいかない。

慌てて押入れに入れてある圧縮した布団を引っ張り出した。
母専用のそれをベッドの横に並べてひいてみる。

いやいや、この場所はダメだ。
隣で寝るなんてありえない。

布団を畳んで、リビングに向かった。

ここもダメだ。
今からこんなとこにひいてたら誘ってるみたい。

その布団を持ってまた寝室に戻った。とりあえず畳んだままここに置いておこう。

「はぁ」

私、なにやってるんだろう…

心臓がドキドキしてる。
たぶんそれは動き回ったせい。絶対に課代を意識してそうなってるんじゃない…


それにしても遅いな…