メトロの中は、近過ぎです!

「やべー。キスしたい」
「うん」
「でも、南さんにオフィス内恋愛禁止って言われてんだよ」
「え?」
「一歩外に出れば干渉しないけどって…」
「外?…」

眉間にしわが寄った。

「あぁ。だから早く外に出るぞ」

大野さんが私の手を取って階段を降り始める。

「え?待って。じゃ南さんは知ってるの?」
「は?今更なに言ってんだよ。みんな知ってるだろ。俺、浦安から来てるって言ったから…」
「えー!?」

内緒にしようって言ったのに!
え?え?誰がどこまで知ってるの?
絶対、会社中の噂になっている。
どうしよう。
本社の麻紀さんや、私の同期の子たちや、大阪支社のアイツや…

「な、なんで…」
「別にいいだろ?」
「でも、別れたりしたら…」
「何言ってんだよ。別れねーし。言いたい奴には言わせとけよ。そんなんに一々反応してたら体持たねーぞ」

そっか……
会社中に噂されてたあの頃のトラウマがまだ抜けてないんだ。

大野さん、強いなぁ

もしかしたら大野さんはこれまで常に誰かに噂される環境の中で生きてきたのかもしれない。
私よりももっと大変な状況の中で……

私も強くなりたい。
もっとしっかりと立っていたい。

この人の隣りが似合う女になりたい。