メトロの中は、近過ぎです!

引っ越しの片付けも終わって、今日は早めにみんなが帰っていく。

「明日はショールームの荷物が届くから、おまえも今日は早く帰って休めよ」
「はい。南さんも早く休んでくださいね」

南さんがこのあと本社で会議に出るのを知っている。
いつ休んでるんだろう…

最後に南課長が出ていくと、事務所には大野さんと二人になっていた。

「佐々木。そろそろ帰るか?」

大野さんが荷物をまとめる気配がする。

「大野さんは会議に出なくてよかったんですか?」
「俺は外部の人間だから、今後の経営方針の会議に出られる訳ないだろ」
「そうなんですか…」

大野さんはいつかこの部署を出ていくんだろうな…

「大野さん。飲みに行きますか?」
「…いや。家でゆっくり飲みたい」
「家って…」
「浦安で…」

優しく笑うその二重の目に、イヤとは言えない。

見違えるように変わった鶴見営業所の電気を消そうとスイッチに目をやると、そこにはすでに大野さんが立っていた。

「消すぞ」
「あ、待ってください」

大野さんのそばに立つと電気が消された。
室内の窓から表通りの光が入ってくる。

この光景は、初めて大野さんとここに来た時と同じ。
信号が変わると、事務所の中も赤色に染まる。

あの時ここはソファーしかなかったのに……

「佐々木…」
「はい」

大野さんが黙っている。
私もただ事務所が3色に変化するのを見ていた。

「これからだな」
「そうですね」

全てこれから始まる。
恋も仕事も…

「おまえ、受付の勉強どうするんだ?」

突然大野さんが仕事モードになった。
良い雰囲気だったのにって、ちょっと口を尖らせながら答えた。

「そうですね。どこかに研修に行ってこようかと思ってます」
「大野建設に頼んでやろうか?」

ビックリした。
私の中では3課にいたころの得意先のお姉さんに頼んでみようかと思っていたのに、まさかそんな大手の受付なんて……でも勉強にはなる。

「お願いします」