メトロの中は、近過ぎです!

事務所に入ってきた中川さんも森田さんも、既に自分の席が決まっているみたいで、真っ直ぐパーテーションの中に消えてく。
戸田君まで自分の城を確保している。

「悪い。遅くなった…」

遅れて入って来た南課長も

「どうした?佐々木」

そんな声をかけながら一番奥のパーテーションへと歩いていく。

「南さん。私のデスクは…」

違う答えを期待して恐る恐る声を掛けたのに、

「あ、佐々木はショールームの受付ね」
「南さん。本気で言ってるんですか?」

思いがけず大きくなった声に、遮られた城の中からみんなの顔だけが出てきた。

「諦めろ。佐々木」

後ろから森田さんの笑い声がする。

「主任。じゃなかった課長!違いますよね?」
「あれ。俺、言ってなかった?」
「聞いてないですよ」
「あー。言い忘れてた」

絶対わざとだ。
南さんが伝え忘れなんて、そんなミス今まで見たことない。

「受付なんて…私なんか無理ですよ…」

いつの間に来たのか隣には大野さんが立っていて、肩にポンと手を乗せると、

「佐々木。できるできないじゃない。やるかやらないかだ」

楽しそうにニヤリと笑っている。

「それ、大野さんが言われてたことでしょう!」

迂闊にも赤面した私に、みんなの笑い声が聞こえてきた。