メトロの中は、近過ぎです!

事務所に上がる階段のクッションタイルも自社のものに変更されていた。
そんなところが戸田君らしいと思いながら、ゆっくりと階段を上って行く。

ここから落ちたのか…

改めて上から見下ろすと、足がすくむ。
普通の二階より高い事務所に続くこの階段を落ちて、よく無事でいられたと今更ながら怖くなった。

事務所に入ると、以前の何にもない状態を思い出すのが大変なくらい変わっていて、それぞれのデスクは広くて、パーテーションで仕切ってある。
照明も明るく、全体的にポップな感じがする。

まるで海外映画に出てくるオフィスみたい…

「大野さーん」

奥に呼びかけてみる。

「こっちだ」

パーテーションの林の向こうに手が見えた。

受付みたいな机の横を通って、一つ一つのパーテーションの間を覗いていくと、奥の方の机に大野さんが座っていた。

デスクがL字型で、奥の机に大野さんはパソコンをセッティングしている。
この映画の中みたいなオフィスに大野さんはよく似合っている。

「何持ってるんだ」

振り返った大野さんが、私の手の中にある赤いバラの花束に気が付いた。