「ニューヨークに行くって」
「ニューヨーク?」
「うん。来たいなら来いって…」
「それで?」
「行かないよ。だから別れたの大野さんのせいじゃないから…」
「……」

頷く大野さんを見ながら小さな深呼吸をした。

「大野さん。いろいろありがとう。助かった。でももう大丈夫だよ。家に帰りなよ」
「…真帆」
「個室も今日まででいいから…わざわざ個室にしてくれてるんでしょう?お母さんから聞いた。でも私には払えないから、今日まででいいよ」
「それは俺が出すよ。俺と揉めて落ちたことになってるから」
「でも本当は違うでしょ?だからもういいよ。ありがとう」
「なんだよ。おまえまで…」

ふふ…と笑えるくらい、今の私は落ち着いている。

「私、仕事に生きるの。青木常務みたいになるから。佐々木常務取締役だから…」

ここは笑うところだよと大野さんに言ったのに、大野さんが何も言わないから、

「だからもういいよ。お姉さんのところに帰らなきゃ、ね」

ちゃんと最後まで言えたと思う。

しばらくすると無言で立ち上がった大野さんが荷物をまとめ始めた。

それが何を意味するのか分かっている。