シンさんがドアを開けると、すぐそこに大野さんが立っていた。

二人はその場からしばらく動かないで、何かを話してる。
睨み合っているようにも見えて心配になったとき、大野さんが頭を下げた。

それを見たシンさんはそのまま立ち去っていく。
見送った大野さんは中々部屋に入ってこなかった。

「何か言われたの?」
「ああ…」

ゆっくり戻った大野さんはそのままベッドの横に座って、何も言わない。

「何、言われたの?」
「おまえら別れたのか?」
「…うん…」
「そっか…」

なんだか落ち着かない。
私には言えない話をしていたんだろうか。

「俺のせいか?」
「っえ?」
「おまえが階段から落ちた時、俺はあの人を責めたんだ。
ついムキになって…おまえに真帆は任せられねーとか…触んなとか…
でもあの人は冷静だったよ。
救急車の手配とか、その後のこととか…」

大野さんは両手で顔を覆ってため息をついた。

「あの人にはかなわねー」
「…うん…」

なんて返事していいのか分からなかった。

「おまえを頼むって」

シンさん……

今更ながらシンさんの大きさに胸が痛くなる。
こんなに優しい人を豹変させてしまったのは私なのに、ちゃんと謝ることもできなかった。

鼻が痛くなって、泣きそうになったけど、堪えた。
泣いたりなんかしたら、シンさんの気持ちが安っぽいものになりそうで……

シンさんの決断に倣って、私も覚悟を決めなきゃいけないと思う。