「食べきれないほど作ったから、マホも協力して」

いつもよりも低いその声に、イヤとは言えない。

「いただきます」

シチューを口に運んだ。

ほとんど会話することもない。
シンさんからも話し出す雰囲気もない。

シンさんは気が付いてるんだと思う。

いたたまれない雰囲気の中 食べ終わると、片付けくらいは私がしますと、キッチンに立った。


「やっぱりいいね」

シンさんは、私の方を見てお酒を飲んでいる。
机に頬杖をついてグラスを傾ける仕草が、男なのに色気がある。

「何、飲んでるんですか?」

黙っていると、この雰囲気に飲み込まれそうだった。

「バーボン。でも俺がいいって言ったのはお酒じゃないよ」
「え?」
「こうやって誰かがキッチンにいてくれることだよ」

思わずシンさんを見つめた。

「マホ。似合ってるよ」
「からかわないでくださいよ」

頬が熱くなる。
完全にシンさんのペースだ。

「奥さんみたい」
「そんな、私なんて…」

そんなことを言ってもらえる資格なんてありません。

心臓が痛くなる。
そろそろ伝えなくちゃ……

片付けが終わるとソファーの方に呼ばれた。
隣には座らないで、違う椅子に座った。
シンさんは、私にもバーボンのグラスをくれた。