「20年も前のことだからあんまり覚えてないね」

あはは…と笑ったのは私だけだった。

「俺は覚えてるよ」

彼は静かに言った。

「俺は覚えてる」
「……」
「転校してからも何度も戻りたかった」
「辛かったの?」

ゆっくり首を横に振るはると君。

「大野の父はよくしてくれたから、辛いっていうのはなかったけど…戻りたかったんだ…」

私を見て一瞬何かを言いかけたけど、またグラスに口をつけた。

「飲み過ぎたかもな…」
「うん。結構飲んだね」
「おまえ、もう部屋に戻れ」
「そうだね。明日もあるしね」
「ああ」

気が付かないうちに結構飲んでしまっていたみたいで、立ち上がるとフラフラした。

「大丈夫か?」
「うん。大丈夫」

片付け始めると、腕を握って止められた。

「俺がやっとく」
「あ、ありがとう」

握られた腕が熱い。