「末岡さんに言ってないんだろ」
「なにが?」

何を聞かれてるか分かってる。
でも、正直に答えられない。

「一人で出張したって嘘」
「……」

どうして本当のことが言えないのか、もう分かってるのに。
このままじゃダメだってことも分かってる。
会わなきゃいけないって
もうシンさんに言わなきゃいけないって……

「俺が言ってやろうか?」
「な、んて、言うの?」
「俺は幼なじみだから安心しろって」

あり得ないって分かってるのに、一瞬違うことを言われるのかたと思ってしまった。
例えば「別れて俺のとこに来いよ」的な……

本当にあり得ない。
何を考えてるんだろ。

「ありがとう。でも大丈夫だよ。自分でなんとかするから」
「……だよな」

微妙な沈黙。
今、何か話すと余計なことを口走ってしまいそう。

「おまえ、強くなったな」

大野さんが私を見てる。

「あの頃みたいな感覚で、俺が守ってやらなきゃって、勝手に思ってたけどな」

……そうだったんだ。
彼はずっと幼なじみとして私を見てたんだ。

川端主任のことも、鶴見の営業所で抱きしめられたのも、今までのは全て幼い頃の延長で、恋愛感情なんかなくて……
それなのに、勘違いしていた自分が情けない。

胸がずっしりと重くなった。

何を期待していたんだろう。
大野さんには婚約者がいる。

このまま何事もなかったように……
このまま、また自分の気持ちに気付かない振りをして……

やっていけるんだろうか……