「ねえ。私のこと気付いてた?」

売店で籠を持ってうろつく彼について回る。

「ああ」
「いつから?」
「…最初から」
「最初?最初って朝礼に課長と入ってきたとき?」

あの日の爽やか御曹司の顔を思い出した。
すぐに化けの皮は剥がれたけど。

「いや、その前。あの前に一度挨拶に行ってた。そのときにミーティングルームになんか見覚えのあるやつがいるって思って、タイムカード見た」
「え?知らなかった」
「おまえは夢中でどっかのオヤジと話してたからな。あれな、ちょっと無防備すぎるぞ」
「へ?どれ?」
「あんなにニコニコ笑って、オヤジの横に座ったりして、勘違いされても仕方ないぞ」
「……」

なんか話が違う方向にいってるし、そんなこと全く覚えてないし。
黙ったままついて行くと、

「おまえも何か入れろよ」

彼が籠を出している。

「おごり?」
「今回だけな」
「じゃあ、再会を祝して宴会ですね?」

満足そうに笑って次々と篭に入れていく大野さん。

その笑顔にドキドキしてしまった。