メトロの中は、近過ぎです!

「どうぞ」

投げやりに両手を出すと、珍しく悩んでいる。

「大野さん。分かんないんですか?」

ちょっと嬉しくなって、前のめりになって聞いてみた。

「こっち」

その途端、大爆笑されて左手の甲を叩かれた。
私は片目で睨みながら、左手を開けてみせた。

まだ大野さんは笑っている。

「あー、腹いてー」
なんて言いながら大笑いしている。

大笑いすると両頬にえくぼができるのを発見した。

「絶対、分かってますよね?」

私の不機嫌オーラにやっと気付いたのか、悪い悪い、なんて言いながら座り直した大野さん。

それでも笑いは我慢が出来ないようで、左手をグーにして口の前に当てて、少しでも笑ってるのを隠そうとしているのが、余計にイラつく。

「おまえな、手、見るんだよ。入ってる方の手を…」

「え?見てるんですか?」

全く予想外の答えに驚いた。
それってタネも仕掛けもなく、ただの私の不注意じゃん

「そのクセ、昔っから変わんねーなー」
「昔っからって…」
「昔からだよ。幼稚園くらいから…」

なんで大野さんが私の幼稚園の頃を知ってるんですか?