メトロの中は、近過ぎです!

大野さんはそのまま冷蔵庫に行ってビールを取り出している。

そんな言葉を言っても困らせるだけだろうな。
私はこの関係で満足している。
この信頼し合った上司と部下の関係で……

「おまえも飲むか?」

ビールを差し出されたのに手を振って断り

「私はこっちで」

そう言って桜舞のグラスを上げる。

「オッサンかよ。なんだその仕草」

大野さんが笑っている。
それだけで良かった。
その笑顔が見られるだけでいい。

「佐々木。ツマミ買ってこいよ」

大野さんは既にくつろぎモードでソファーの上に片足上げて飲んでいる。

「えー、私がですか?大野さん行ってくださいよ」
「じゃ、アレで決めるか?」

大野さんがニヤリと笑った。

「コインゲーム」

そう言いながら、財布から一万円札と500円玉を取り出し、それをテーブルに置いて、嬉しそうに笑っている。

「負けた方がツマミを買いに行く」

私に500円玉を渡そうとしている。

「イヤです。それ勝てそうにないです。
てかなんで私の人生決めるときは100円玉で、おツマミ買いに行く程度で500円玉なんですか?」
「おまえの人生500円で決めていいのかよ」

声を出して大野さんが笑っている。

「そうじゃなくて…」
「いいから早くやれよ」
「だって絶対バレるもん」
「二分の一の確率だって」

笑いながら私の手に500円玉を握らせて、自分は目をつぶってビールをゴクゴク飲んでいる。

「もう……」

ほとんどおツマミを買いに行く覚悟で、渋々左手に500円玉を握った。