メトロの中は、近過ぎです!

「手伝います」
スーツの上着を脱いでキッチンに入って行くと

「あら。悪いわねー。じゃこれ混ぜてもらえる?」
気さくに迎え入れてくれる奥様。

にっこり笑った顔はとても親しみ安くてお母さんかおばあちゃんのようだった。

「ご主人はどちらへ?」
「あー。あなたたちが来てるのにごめんなさいね。今日は商工会議所でインスタの講習会があるとかでどうしても行きたいみたいなの。あとのことは工場長に任せてあるから大丈夫よ」

軽くそう言われた。

おそらく60代のご主人がインスタ……
若い!
なんだかそこに桜酒造がV字回復した要因があるように思えた。

お昼のサイレントともにバラバラに集まってきた桜酒造の皆さんに私たちは紹介され、一緒に食卓を囲むことになった。

親戚の方もご近所のパートの奥さんもみんながこの時間を楽しみにしているのが分かった。
笑い声が途絶えることなく目の前のおかずがなくなっていく。

私たちも自然に入ることができた。
特に大野さんは桜酒造のベテラン主婦の皆さんに人気だった。
この御曹司スマイルは無敵だって忘れてた。

休憩が終わると、さっさと作業に戻っていった人たちにあっけに取られたが、すぐに工場長に作業着に着替えるように言われた。

それから夕方まで、ずっと立ちっぱなしの作業。
慣れない力仕事。
酒瓶を割ってはいけないという緊張感。

そんなことが私を仕事に集中させた。

私はメモを片手に、奥村さんというご近所のパートの方について回った。

受注表から梱包の仕方全てを教わった。
一つ一つ丁寧に箱詰めされる桜酒造ご自慢の日本酒たち。
最後に手書きのお礼状まで入れられて、私が依頼主ではないのに感動してしまった。

他にもクレームの対応やら、過去の取引のデータの保管方法など、これからの私たちに必要なことをいろいろと教えてもらった。