「人事部長と広報部長が心配したみたい。大野にたぶらかされるって…」
「俺に？」

伊藤チーフは可笑しそうにふふふと笑っている。

「大野建設の御曹司がハラマキをもてあそんで捨てるって噂が流れたみたいね。それでハラマキに虜になってる方たちが心配して呼び戻したの。あの人、本社でやりたい放題だからねー」

そう言いながら綺麗に飾られたネイルを見ながら満足そう。

「なんでそんな噂が…」

大野さんの眉間には皺が寄っている。

「発信源は南主任と私」
「は？」

大野さんが絶句している。
その視線を捉えて嬉しそうに笑ったチーフがゆっくりと向き直った。

「大野。ハラマキがいたんじゃ４課はバラバラのままだよ。今回はさ、どうやってもあんたの手で新規事業を軌道に乗せなきゃでしょ？」

さっきまでのおちゃらけた雰囲気じゃない。本気の顔。

「この前は助けてやれなかったから、主任も私もあんた達に申し訳なくてさ」

チーフは優雅に立ち上がって

「思いっきり仕事に打ち込みな。今はそれが一番大事でしょ？なんかあったらいつでも協力するからねー」

そう言いながらチーフはゆっくり戻って行った。