カツカツと足音がすると、バンと扉が開かれた。
麻紀さんは早足でデスクに戻り、真っ赤なバッグを取り出している。

「本社に行ってきます」

いつもよりも2オクターブくらい低いんじゃないかというくらい不機嫌な低い声でそう言うと、さっさと出ていってしまった。

「……」

開けっ放しの扉をポカンと見つめていたら、入れ替わりにそこに満面の笑みの伊藤チーフが現れた。

「お疲れさまっ」

なぜだか凄く嬉しそう。
4課の端に置いてある応接セットに歩いていって、優雅に座って笑顔を振りまいている。

なんか怪しい。

「ここが元会議室だなんて思えないね。立派なオフィスになったわねー」

たいして高級ではないソファーを触って微笑んでいる。
獲物がかかるのを待ってる目。

「チーフ。麻紀さん、どうしたんですか?」

チーフの目が輝いた。

「本社に戻ってくるように言われたみたいよ」
「え?異動ですか?」
「そ」
「なんでですか?」

私と大野さんと同時に反応した。