コンコン

4課の扉がノックされて、顔を出したのは伊藤チーフ

「原田。本社から電話だよ」
それだけ言うとすぐに戻っていった。

麻紀さんはもう一度ため息をつくと3課へ電話を取りに行く。

大野さんはこれで話は終わったと言わんばかりにパソコンの画面に夢中。私は頭を抱えながら自分のデスクへと戻った。

自分のデスクから大野さんを見ると、もういつもと変わらないように仕事をする姿がある。
なんか無性に腹が立った。
出張行きたくない。

「大野さん。ちょっとは空気読んでくださいよ。あの状況で私が行けるわけないじゃないですか」
「おまえこそ空気読めよ」

意外な返事。

「え?」
「あの状況で二人で行ったら、確実に俺が喰われるだろ」

「ぷっ……」

吹きだしてしまった。
大野さん、そんなこと気にするんだ。

「喰われちゃえ」

そっか。そういう事なら仕方ないか。
ニヤニヤしながら私も仕事を再開した。

「喰うぞ」

突然の大野さんの声に固まってしまった。
ドキドキしながら大野さんを見ると、無表情で仕事をしている。

「シャレにならないですよ」

やっと出た言葉と笑顔はひきつっていたと思う。

「だよな…」

大野さんが独り言のようにつぶやいたけど、オフィスが静かだったから私にもよく聞こえた。


だよな…って認めるの…やめてください。