それからは仕事に集中できなくて、ミスばかりで全くはかどらない。
夕方近くになってやっと戸田君だけが戻ってきた。

「戻りましたー」
「戸田くーん。さっきの方は?」

さっそく麻紀さんが聞いてる。
でも、私もそれが聞きたかったから、今は麻紀さんに心の中で感謝。

「末岡さんですか?かっこいいですよね。今度の鶴見営業所のショールームのデザインを担当してもらうんです。1課の人に紹介してもらったんですけど、かなり有名なデザインオフィスらしいですよ」
「ふーん。彼女いるの?」
「そんな話してないですよ」
「佐々木ちゃんのこと何か言ってた?」
「え?真帆さんのことですか?」
「麻紀さん!何を言ってるんですか?」

動揺して声が上ずってしまった。

「真帆さん、末岡さんと何かあるんですか?」

戸田君が疑いのない目で見るから、

「ううん。何もないよ」

顔が引きつる。

「大野さんとは何か話してたみたいですけどね」

書類をめくる手が止まった。

「何を?」
「それは聞こえなかったんですけど…本当に何かあるんですか?」
「ううん。ないって…」

ニッコリ笑って仕事に集中してるフリをした。

でも、何を話したんだろう…