「佐々木。どうした?」
伊藤チーフが隣にいた。

「あの……資料が……」
言葉が続かない。

かなり動揺している私に周りが気付かない訳がなかった。
伊藤チーフと沙也香ちゃんが黙って私を見ている。

なんて答えようかと迷っていると、

「じゃ、車の用意してきます」

戸田君の明るい声が聞こえた。

しまった。どうしよう。
どうかシンさんと行くのは戸田君だけで……

戸田君が目の前を通り過ぎて入口に向かう。
恐る恐る振り返ると、シンさんが私の方に真っ直ぐ歩いてきていた。

余裕のある微笑みを浮かべて、真っ直ぐ私を見て。

「あ、あの……今、時間ありますか?」

耳が痛くなるくらいの間を開けて、私の横で立ち止まったシンさんは薄く微笑んだ。

「あとで連絡するから…」

「……」

動けなかった。
シンさんとまともに目を合わすこともできなかった。
シンさんは私の返事を待たずに出て行った。

その後ろを大野さんが追う。

「鶴見の営業所に行ってきます」

私の方は全く見ないでその言葉を残して出ていってしまった。

やっぱり一緒に外出するんですね。

胸が痛い。
なんでこんなに手が震えてるんだろう。