どれくらいそうしていたんだろう。
抵抗を止めて、暖かな腕の中に落ち着くと、心地良くて、
寝てしまっていたらしい。

大野さんのコートが私の上に掛けてある。
そしていまだにしっかりと背中にその温もりを感じる。

ゆっくりと後ろを振り返ってみると、大野さんも寝ていた。
イイ男は寝顔も絵になる。

そっと腕の中から抜けて、ソファーから立ち上がった。

起きるかと思ったけど大野さんは疲れているのか全く気付かないから、そのままコートをかけて返した。

朝の寒さに体がぶるっとなりながら窓へと近づいていった。
外を見ると、大通りを通る車の数もまばらで、まだ早朝らしい。
暗い室内を信号機の灯りだけが彩っている。


「結婚する予定の人…」

大野さんの苦しげな声が甦ってきた。

どうして恋人と言わなかったんだろう。
もしかして政略結婚?
そうか。
大野建設のために会ったこともない人と結婚しなきゃいけないのかもしれない。
もしくは、許嫁とか。

私の頭の中で勝手にストーリーが出来上がっていく。

本当は大野さんだって望んでいない結婚で、でも御曹司だから会社のために仕方なく……


ーーーだからなんだと言うのだーーー

自分だってシンさんがいるのに、こんな浮気まがいのことをして、社内恋愛なんてしないと言っていたのに、何を期待していたんだろう。

私と大野さんは上司と部下。

それ以外の未来はない……