「離してください!」

腕を振りほどこうともがいたけど、大野さんの腕の力はゆるまない。
それどころかもっと強く抱きしめてくる。

「真帆……」
「離して!」

ジタバタ暴れるけど、逆にうなじに顔をつけられ、

「頼む。もう少しだけ……」

切なく囁かれる。

「何言ってるんですか?私と不倫したいんですか?これじゃ川端主任と一緒じゃないですか!」
「……」

涙が溢れてくる。
こんな人のためになんか泣きたくないのに……

「私で遊んでるんですか?」
「違う」

それでも腕の力は緩まなくて、

「……離してください」
「悪かった。頼むから泣くな」

うなじにかかる息が熱い。

「だったら離してください!」
「それは、できない」
「勝手過ぎます」
「真帆…」

苦しそうな声。

勝手なのはどっちなんだろう。

「真帆」

時々申し訳なさそうに名前を呼ぶ大野さんを、頭では拒否しているのに、暖かな腕の中から逃れられずにいる。

「……」

これはいけないことだと思うのに、心がこの場所を望んでいるみたい。

大野さんが優しく私の髪に触れている。