「真帆」
「なんです…」
…か、って言おうとしたらいきなり腕を引っ張られて、バランスを崩し、後ろから抱きしめられた。

「ちょっ。何、してるんですか」
振りほどこうとしたけど
「少しだけ。少しだけでいい。頼む。おとなしくしてろ」
両腕で私をしっかり抱いて肩に顔をうずめて、彼は掠れる声でそう言った。

いつもは見上げるくらい大きな人なのに、今はまるで小さな子供のようで……

「はると君……」

幼稚園時代の懐かしい記憶が甦る。
私が守ってあげなきゃって思ってた男の子。
名前が同じってだけで、重ねて見ているのかもしれない。

視線を下げると大野さんの腕がしっかり私に絡みついていて、スーツの上からでもその逞しさが分かってしまう。

目を閉じて、その腕に頬を寄せた。

大丈夫だよ。って伝えたくて。
悩んでる大野さんの力になりたくて。

だけど……

この行為は、シンさんに対する裏切りだと分かっている。