しぶしぶ着替えて大野さんの後に続くと、

「どこ行きたい?」

楽しそうに黒いRV車に乗り込み、そのまま都心から逃げるように反対の方向に向かった。

ふと気づくと南行徳の駅前の信号で停車している。

シンさんの家の最寄り駅。

慌ててシートに深く座って、髪で顔を隠した。

大野さんがちらりと横目で見る。

「何やってんだ?」
「いや。何も…」

神経が車の外にでもあるかのように、周りの音がよく聞こえる。

こんなところを見られたら、誤解されてしまう。

彼を裏切っているようで、下を向いたまま顔を上げられない。

「具合悪いのか?」
「ううん…大丈夫…」

二人の男に嘘をついてるような気がする。


そんなことを考えていたら、景色が開けて海が見えてきた。

「大野さん、運転好きでしょう?」
「なんで?」
「なんか楽しそう」
「あー、運転は嫌いじゃない。でもこの前の浜松からの帰りは辛かったな」
「あの時ね。みんながすごいって言ってたね」
「人形町でも荷物積んだだろ。浜松でもハンパなく荷物積まされてさ。そのあとの高速の運転はマジでやばかった」
「生きてて良かったね」
「あー。そうだな」

大野さんが私の方を向いて薄く微笑むから、胸の辺りがぎゅっとなって泣きそうになった。

今「無事で良かった」なんて言ってしまえば、確実に私の目からは涙が流れる。

慌てて窓の外へ集中した。

「今日も早く出たんでしょう?」
「いや。今日は6時に起きたから…」
「え?でも8時にはうちいたよね?」
「そんなもんだよ。今日は空いてた」
「…そうなんだ…」

そんなもんなんだ…
何を期待していたんだろう。
私のために特別に早起きして来てくれた、と勘違いしたかったんだろうか…
恥ずかしっ!