……いや、そうじゃねぇのか?
強がってるんじゃなく、抗ってるのなら?
パンドラの箱が開いてしまわぬよう、心の傷をえぐってしまわぬよう。
幼い頃の“お兄ちゃん”が、塞いでいるとしたら……。
――なんて、な。
ただの妄想だ、こんなの。
ガチャ、と静かに扉が開かれた。
手を繋いだまま戻ってきた2人に、誠一郎は安堵の息を漏らす。
「た、ただいま」
たどたどしい挨拶なんか、どうだってよかった。
赤く腫れた、千果の目元。
今まで泣いていたのか。
俺ではなく、幸汰の前で。
そのことで、頭がいっぱいだった。
ちくり。
心臓に刺さったトゲが、のめり込んでいく。
気づいていない振りさえも、させてはくれないほどに。
どんなに痛くても、耐えられるから。
ちっぽけな穴がそのまんまになってしまっても、かまわないから。
……だから、早く、こんなトゲなんか抜いてしまいたい。
「幸汰が急に連れて行っちまうから、最初びっくりしたぜ!」
遊馬が陽気に一笑した。
なんとも言えない気まずい空気が、和んでいく。
こういうとこ、ほんとすげぇよな。
本人にはぜってぇ言ってやらねぇけど。
「す、すみません」
ハッとした幸汰は、照れくさそうに繋いでいた手を放した。
「買い忘れた物は買えたのか?」
赤のソファーから、誠一郎が2人を見据える。
わっかりやすい嘘だったってのに、騙されてやってるんだ。



