――夢を、見た。




お兄ちゃんが寝ているあたしを、『千果、千果……!』って切なそうに呼んで起こそうとしてくれる、心躍る夢。


現実では、お兄ちゃんがあたしの名前を呼んだ最後の瞬間は、あたしが覚えてる限りでは、雪崩に襲われて背中に岩が衝突した時。




お兄ちゃん、また呼んで?

あたしの名前を。


夢の世界もいいけど、やっぱり現実の世界で呼ばれたい。



お兄ちゃんに呼ばれると、自分の名前が宝物のようにきらきら輝いて、嬉しくなるの。





長い長い夢から覚めたあたしに待ち受けていたのは、夢みたいな幸福などどこにもない、容赦のない悲劇だった。