いつもは上がらない、4階よりも上の階段を上る。
私より三段先に登る秋樹の背中は、綺麗に皺の伸びた真っ白なワイシャツで覆われている。
くるんとした襟足がなんだか可愛いな、なんて少し頬が緩んだりした。
吹奏楽部の楽器の音とか、野球部の掛け声とか。
そんな音が遠くから聞こえて、でもこの空間はふたりきりで静かで。
階段を上るふたりの足音だけがやけに大きく響くから、すこし緊張してしまう。
「ねえ、秋樹」
「んー?」
重たくて少し錆びたドアをゆっくり開けながら、秋樹が少し気の抜けた返事をする。
「…なんでもなーい」
「はは、なんだよ」
ギイ、と音を立てて開いた重くて冷たいドア。
同時に吹き込んでくる、真夏カラッとした空気と、爽やかな風。
その向こうには、真っ青な空と白い柵。
「わあ、気持ちいい!」
涼しい透明な風が秋樹の黒い髪を揺らして、私の髪も一緒に揺れる。
たったそれだけのことが幸せで、宝物みたいで、この空気すら忘れたくないと息を大きく吸い込んだ。



