「そろそろロングホームルーム終わるけど、教室戻れそう?もう少し寝る?」


「戻る…」



優しく笑って立ち上がった秋樹の後ろに並んで、保健室を出た。


いつも私が前を歩いてるから、歩いている秋樹の後ろ姿はちょっとレアだ。


少し眠そうな歩き方も、風で顔にかかった髪を鬱陶しそうになおす仕草も。

全部全部、私の胸にきゅんと響く。




このまま時間が止まればいい。

このままずっと、ふたりきりならいい。


自分の進みたい道を見つけた秋樹のこと、自分の夢に向かう秋樹のこと。


すごく、すごく遠くに感じるのは、私がまだなにも決められていないから。


特になりたい職業もわからない。

大学で何が学びたい、っていうよりは、大学に行けば夢も見つかるかもしれないと思ったから。



私はまだスタートもできてないのに、秋樹はもう見えないくらい遠くまで行ってしまった。



眩しい春の光が窓から差し込んで、秋樹を照らして。


そのまま光に溶けて消えてしまうんじゃないかって、胸が痛くなった。