「…あ、引き止めちゃったけど戻っていいよ。ドッジボールやりたいよね?」
「いや、別にいいよ、ここにいる」
「そっ、か」
手を伸ばせば、秋樹に触れられるこの距離で。
誰もいない、消毒液の匂いの保健室で。
ずっと必死に堪えてきた想いが、溢れてしまいそうで怖くなった。
「朝、コウが柊香のこと間違えて母さんって呼んでて笑った」
「なにそれ、さすがコウ、アホすぎ」
何でもない話をしてくる秋樹に、私もいつも通り笑うけれど。
秋樹は本当に、私に何も言わずに東京に行ってしまうつもりなんだろうか。
私、ちゃんと、頑張れって。
おめでとうって、言いたいよ。秋樹。



