「芹奈、またトマト残してる」
私のプチトマトだけ残ったお弁当箱を見て、秋樹が呟く。
「だ、だって苦手なんだもん…」
「だから子供なんだよ」
「うっ…」
私のことを芹奈って呼ぶ男子は、秋樹だけで。
みんながアッキーって呼ぶ彼のことを秋樹って呼ぶのは、私だけ。
それが私にとっては心の1番奥の宝箱にしまって、鍵をかけてしまいたいくらい大切なことなんだけれど、きっと秋樹にとってはなんでもなくて。
私がプチトマトを嫌いなことを覚えててくれたのにも深い意味はないし、私がプチトマトを残してることに気付いたのだって私を見てたからじゃない。
分かってるんだよ、分かっているんだけど。
プチトマトを食べて大人になって、そしたら私と付き合ってくれる?なんて馬鹿みたいな質問を、大嫌いな酸っぱいトマトと一緒に飲み込んだ。



