神様、私を消さないで

「いい加減にしてください。警察を呼びますよ」

ヒステリックな声が聞こえた。

耐えかねた隣の奥さんが抗議しているのだろう。

「すみませんねぇ、奥さん」

笑いを含んでいる男の声。

何度か声をかけられたことがあるから、顔も知っている。

温厚そうに笑う中年の男性。その目がけっして笑っていないのを見て、ゾッとした覚えがある。

「空野徹さんに用事があるんですよ」

「だからってこんな朝早くに、非常識じゃないですか」

「私たちも仕事ですからねぇ。返してもらいたいものがあるのですよ」

慣れているのか、軽く答える男の声。


もうやめて……。


耳をふさいでも、今日はしつこく続く騒音。

「返せ、って言っても法外な金額なんだぜ」

おどけるようなお父さんをにらみつけた。


誰のせいでこんなことになったのよ……。