その声は、馬車の音で御者には気付かなかったようで、淡々と走り続けた。
やがて屋敷に到着したのか馬車が止まり、普段と変わらぬ様相で扉を開けて、下りるようにと促す。
そのとき初めて、御者が驚いた顔をみせた。
無理もない、そのときの私はこの世の終わりと言わんばかりの表情をしていたから。
「ど、どうなさいました?」
「なんでもないの。少し酔ってしまっただけ、気にしないで」
フラフラになりながら馬車を下りる。
御者がたまらず手を貸そうとするが、それを軽く跳ねのけてひとり屋敷へと入る。
屋敷には数少ない使用人のひとり、アマンダが出迎えてくれた。
「おかえりなさいませ、ビアンカ様……って、どうなさったのです!?」
「ええアマンダ、今帰ったわ。それよりも、大事な話があるの。私と一緒に部屋に来てくれるかしら」
「もちろんでございます!さあ私の肩に手を掛けて。お部屋までお助けいたしましょう!」
今にも倒れそうな私の身体をアマンダが横から支え、ゆっくりと階段を上る。
アマンダは私が幼い頃からこの屋敷で働いてくれていて、屋敷の仕事はもちろんのこと、私に掃除などの身の回りのことや勉強、貴族のマナーなど、あらゆることを厳しくも丁寧に教えてくれた家庭教師でもあった。
そして父や母にも言えない悩みを打ち明けられる、大事な人でもある。


