王太子様の策略に、まんまと嵌められまして~一夜の過ち、一生の縁~


自分だけが余裕のない生活。

まるで出口の見えないトンネルに入ってしまったような不安が、常に襲っていた。

けれどファリス様はそんな私とは打って変わって、とても楽しそうで……。


それが許せなかった。
好きかどうかも分からないのに。

好きになれるかも分からないのに。

自分を取り巻く環境だけがどんどんと変わっていく。
私の気持ちを取り残して。


「ファリス様と出会わなければ、こんな辛い思いをせずに済んだのにっ……!」



そんな思いを言葉にしてぶつけてしまってから、ハッと我に返った。

心の中で思っていたとしても、決して言ってはいけない言葉。

なんてことを言ってしまったのだろう、そう冷静になったときにはすでに遅かった。


目の前のファリス様は、とても傷ついたような表情を浮かべている。

初めて見る顔。

胸がズキリと痛んだ。


「あ……」

謝ろうと思ったが声が出ない。

『ごめんなさい』と言ってもファリス様は許してくれないかもしれない。
だってこんなに悲しそうな顔をして……。

そう思うと、怖くなってなにも言えなくなってしまった。